スモール・ジャイアンツと「社会的意義」の重要性

スモール・ジャイアンツの特徴のひとつとして、優れた商品やサービスを提供することに対して注ぐのと同様の熱意を、地域社会への貢献にも注いでいることがあげられる。

 

最近、とあるスモール・ジャイアンツ企業でCOO(最高執行責任者)を務める人のインタビューを読んで、強く心に思うことがあったのでここで共有させていただきたい。その人の名前を、ここでは仮にウェバー氏とする。

 

ウェバー氏は2009年に現在の会社に入社。この会社では、経営幹部たちはすべて社内での下積みを経て昇進してきた人ばかりだったので、外部から抜擢された同氏は社内では異色の存在だった。「現場」経験者である同社の経営幹部たちは日々の業務のノウハウには長けていたが、リーダーシップや財務の知識を欠くことが弱点だということを、入社して直ちにウェバー氏は見極めたという。

 

そこで、同氏は入社後4年の間に約8万ドルを投じ、44人のマネージャーを社外のリーダーシップ養成プログラムに送るなど教育に投資し、いわば会社の成長に向けての経営の地固めに専念した。その結果、4年間で売上が倍になるなどの目覚ましい成果を上げた。

 

しかし、ウェバー氏は、ビジネスにおける成功は売上や利益だけでは測ることができないと定義する。例えば、同社では「社内からビジネス・リーダーを輩出する」ことを目標のひとつに掲げ、成功の指標としているという。これは先に触れた教育プログラムへの投資にも関連している。

 

社外のセミナーに人を送ることのほかに、同社では、社内での教育プログラムにも力を入れた。例えば、経営チームや管理者だけでなく、従業員全員に財務の知識を持ってもらうために、社内の全員に損益計算書の読み方を教えることを徹底した。会社の利益がどのように確保されるのかを会社の全員が理解すれば、それが業績に大きなインパクトを与えるはずだと考えたからだ。

 

そして、何よりも自分自身が、従業員と触れ合う時間を増やすことに注力した、とウェバー氏は語る。何か問題があれば、いつでも自分に話してくれと従業員には伝えているという。必ずしも、自分が解決策を提供するためではない。むしろ、問題を抱えている従業員自身が解決策を考えるうえでのコーチングやサポートを提供するためだ。同社はレストラン業を営んでいるが、時間の許す限り現場に赴き、従業員と語らう努力もしている。しかし、仕事の細部に逐一干渉するのではなく、従業員一人ひとりが持っている力を十分に発揮できるよう、仕事の遂行に必要なツールやリソースを与え、あとは極力現場に任せるようにしているという。

 

また、新しく入社してきた従業員全員と必ず顔を合わせ、握手を交わしてチームの一員として迎え入れる。給仕スタッフ、調理スタッフ、管理者など総勢316名のスタッフがいるが、毎月、第2土曜日には、「COOと語る会」を設け、全従業員を招待する(もちろん、全社員が出席するわけではない)。リラックスした雰囲気で、お茶でも飲みながら経営陣と語り合う機会を従業員に持ってもらいたいからだ。そしてなにより、「会社の主役は働く人たちで、経営陣はそのサポート役」ということをわかってもらうことを目的としている。

 

ウェバー氏が社内で奨励しているもうひとつのことは「読書」だ。レストランの現場で働くスタッフたちにも、一日10分でもよいので、本を読む時間をつくるよう勧めている。同氏が読んでいる本を会社に持ってきて、会社の皆が読めるようにしているという。とにかく学ばなければ時代に取り残される、とウェバー氏は語る。

 

同社では、社内のリーダーを養成するだけではなく、地域社会におけるリーダー的存在であることも重要と考えている。会社として、4つの慈善団体を支援しているが、お金を寄付するだけでなく、実質的な活動を通して地域社会に奉仕することにも力を入れている。例えば、ウェバー氏自身は地域にあるホームレスのための一時宿泊施設の役員を務めているが、従業員や顧客の協力も得て、この施設のための活動を頻繁に行っている。冬の流感シーズンが始まる前には、薬品など医療用品の寄付を募るキャンペーンを行った。また、夏の終わりには新学期を迎える子供たちのための寄付キャンペーンを行い、75個のバックパックに学校で使う文具を詰めて寄贈した。ウェバー氏だけではなく、多くの従業員が定期的にこの施設を訪れ、居住者のために料理をふるまったり、また、就業機会を探し、採用面接を控えている居住者のために模擬面接を行って職場への復帰を支援する活動などを行ったりもしているという。

 

「従業員一人ひとりの人生における成功に関与すること」が喜びであるとウェバー氏は語る。同社では、「会社に関わるすべての人が会社と共に成長していくこと」が真の意味での成功の指標であると考えている。そして、それがある限り、同社は競合他社と一線を画す独自の存在であり続けることができるだろう、と同氏は言う。

 

会社にとって最も重要な資産は「人」である。そして、会社が「人」を大切にするということは、働く人一人ひとりの人生に関わり、仕事も含めあらゆる面で、その人が最高の生き方を実現できるよう支援することなのだ、とウェバー氏の言葉は教えてくれる。