スモール・ジャイアンツになるには:第一の条件

コア・バリュー(中核となる価値観)とコア・パーパス(会社の社会的存在意義)の定義を通して、自らのアイデンティティを明確に打ち出している

昨今のアメリカのビジネス界では、業界や規模を問わず、企業がコア・パーパス(社会的存在意義)コア・バリュー(中核となる価値観)を持つことがかなり一般的になってきています。数年前にシリコンバレーの投資銀行家と話をする機会がありましたが、彼の会社では、スタートアップに投資するうえで、その企業がコア・パーパスやコア・バリューを定義しているか、そして、それを基盤に独自性豊かな企業文化(=アイデンティティ)を打ち出すことに注力しているかを主要な判断材料の一つとしているそうです。カリスマ投資家のピーター・ティールが、エアビーアンドビーの共同創設者、ブライアン・チェスキーに「企業文化をぶち壊すな(Don’t F**k up the Culture)」というアドバイスを与えたというのは有名な話です。

それではなぜそんなに企業文化が重要なのでしょうか。

そのひとつの理由は、世の中に同じような商品やサービスが溢れ、差別化が難しくなった昨今では、企業の「アイデンティティ」、言い換えれば「ブランド」が今までにも増して重要になってきているからです。何等かの特殊な技術や特許を持っているというのなら話は別ですが、どんな商品やサービスを提供しているか、だけでは顧客に選ばれることは難しくなってきています。ザッポス、パタゴニア、アップル、スターバックス・・・。いくつかの例を挙げても、強烈な「個性」を持っている企業が、顧客に愛され、支持されているのです。

ただし、「ブランド」といってもその考え方や創り方は過去20年で根底から覆されました。かつての「ブランド」はいわば偶像のようなものでした。顧客が憧れの対象にし、対価を払うような「イメージ」をこしらえてメディアを通じて大衆に発信する。そしてその「イメージ」は、「企業」という実体とはまったく別のものであることが多かったのです。過去には、「企業」の実体がどんなものかは生活者の知る由もなかったからでした。

しかし、今日では、ソーシャル・メディアを通じて誰もが「発信」できるようになり、「企業」の実体が暴かれやすくなっています。これは企業にとっては、脅威でもありますが、好機でもあります。偽物の企業にとっては脅威だが、「本物」を追求する企業にとっては好機であるといえるでしょう。会社の外に向けて打ち出すメッセージと、会社の中で大切にされている信条が完璧にマッチしていれば、何も恐れることはありません。それを店舗や、ウェブサイトや、広告や、商品、サービスなど、あらゆる媒体やチャネルを通じて強烈に打ち出すことによって、既存や潜在の顧客に自社の魅力を十二分にアピールすることができます。

コア・バリュー経営の言葉でいえば、会社に属する大多数が同じ目的(コア・パーパス)と同じ価値観(コア・バリュー)を共有し、それらに基づいて考え、行動していくことによって、一本筋の通った、「生きたブランド」を築くことができるということです。

昨今では、どの業界でも―消費者を対象とするビジネスでも、法人を対象とするビジネスでも―、また、商品やサービスの種類に関わらず、企業がそのような「内からのブランディング」を行うことが必要不可欠になっています。顧客の感情に訴え、好きになってもらい、信頼を勝ちうることが、そして日々、その信頼に応えていくことが、長期的に維持可能な成長の絶対必要条件になっているのです。

石塚しのぶ